外国人とスーパーに行く、という趣味

　僕がオーストラリアで暮らしていたときの話。

　その時の僕は、外国人（日本人以外の人）と一緒にスーパーに買い物に行くのが大好きでした。
　彼らが何を買うかを見ていると、その国の文化が分かるような気がしたからです。

　一番面白かったのは、イタリア人のジェシーと一緒にスーパーへ行ったときでした。

　僕がジェシーの後ろを歩いていたら、彼女はチーズがズラーっと並んでいる棚の前で立ち止まりました。僕も一緒に足を止めます。

こんな感じの棚　

（お、チーズを見てる。きっとイタリア人だから、チーズにはこだわりがあるんだろうなあ）

　ジェシーは30秒ほどかけて隅から隅までじっくりと吟味したのち、1つのチーズを選び出しました。その迷いのない手つきは、彼女の無意識に刻み込まれたイタリア人の遺伝子に裏打ちされたようにも見えます。
　僕は聞きました。
「ねえジェシー。たくさんあるチーズの中から、なんでこれを選んだの？」
　彼女は答えました。
「なんでって、 これが一番安かったからだけど。 」

え～～　そんな理由かよ～～

僕「いやいや、でもさ、イタリア人って、チーズには色々こだわりがあるんじゃないの？」

ジェシー「それはそうだよ。でもね、オーストラリアのスーパーには全然種類がないの。確かにたくさんのチーズがあるように見えるけど、メーカーが違うだけで全部一緒。中にはイタリアでも有名なのもあって、これなんかは私も子供の頃よく食べたけど、それ以外はこれも、これも、これも、これも、ぜーんぶ一緒」

僕「そうなんだ。じゃあ、僕はあんまりチーズのこと詳しくないんだけど、どれかオススメとかある？」

ジェシー「うーん…。一番安いのでいいんじゃない？」

　その後、僕がアジア食品のコーナーでタイカレーを見ていたときに、ジェシーがやってきて興味深そうに覗いてきました。

ジェシー「あ、タイのカレーを見てる。やっぱりタケシはアジア人だから、タイの料理も食べるんだね」

これは誤解です。確かにヨーロッパから見たら、日本もタイも”アジア”なので同じようなものかもしれませんが、少なくとも食生活は全然違います。ちゃんと間違いは訂正しなければ。

「いや、そういうわけじゃなくて…。東南アジアと日本は、食べるカレーが全然違うんだよ。僕もオーストラリアに来る前は、東南アジアの方のカレーなんて全然たべなかった。だから、日本人がみんなこういうカレーを食べるわけではないんだよ」

と説明はしたものの、よく理解ができなかったのか、それとも僕の英語がヘタだったのか、ジェシーはあまり腑に落ちないような顔をして、僕の横を通り過ぎて行きました。

（あーあ、そうやって思い込みで決めつけるはよくないんだよ、ジェシー）

と心の中でつぶやいたものの、よく考えたら僕も同じことをしていたわけで。